認知症について。
わわれプライマリケア医が認知症の治療に関して少し苦手意識があるのは事実である。
認知症に対しても始めの心構えはtreatableなものを除外すればあとのものは直らないのだから、という意識がある。
アリセプトが発売され国民の多大な期待が注がれているが、我々の感覚的にはそれほど革命的な変化をもたらしたとは思えない。
また、日頃病院でぎりぎり働いている我々としては、生活における実情を把握し、対策を考えるところまではとても届かないというのが現状である。
では病院の外来という限界で認知症診断をよりよい物にするにはどのように、時間をつかいどのような人の協力をあおげばよいか?それを考えてみたい。
ポイントは
1 スクリーニングとリスク
2 診断 問診と検査 どこまで必要か
3 治療 適応と副作用 どれほど有用か?
4 対症療法 薬の使い方
5 生活 チーム医療としてなにができる?
でありこの5項目にそって解説する。
1−1認知症のリスクについて
遺伝するのか?
高血圧 高脂血症 糖尿病に 適度な運動 はエビデンスあり。
NSAID エストロゲンは奨励されていない。
認知機能に影響する薬は ベンゾジアゼピン 抗コリン薬バルビッツレート
若い頃の頭部外傷は関連するといわれている。
1−2認知症スクリーニングを実施すべきか?
実際有益であるというエビデンスはないが、少なくともプライマリケア医がフォローしている患者に対しては注意を払うべきで、実際に見逃されているケースが多い。
MMSEやMini-Cogといった方法がある。
2 認知症の診断
認知症が疑われる患者の評価で最も重要な病歴は?
認知症と正常高齢者の決定的な違いは、その経過である。つまり正常者の症状は散発性であり、認知症患者は経時的に進行し、徐々に症状が確率していく。また補正が難しく、機能面への影響がでてくる。
2−1評価法
MMSEやMini-cogが有名である。日本では長谷川式が使われることが多い。
10分ほどかかるので、日常診療にはむかない
CGA−7簡易スクリーングはより簡便な方法として紹介されている。 |
① 意欲 自分から進んで挨拶をするか? ② 認知機能(復唱) 桜猫電車という単語を復唱できるか? ③ IADL 交通機関の利用に付き添いが必要か? ④ 認知機能(遅延再生)先に呈示した「桜猫電車」という単語を覚えていて、答えられるか? ⑤ BADL(入浴)介助が必要か? ⑥ BADL(排泄)自立しているか失敗はあるかどうか ⑦ 情緒 抑鬱があるかどうか |
またそれぞれの認知症を来す疾患の臨床像を把握しておく必要がある。
いろいろな疾患の特徴を普段から意識して見ていないと鑑別はできない。
●Alzheimer 病
早期意識レベルは保たれる。 記憶喪失 軽微な言語のあやまり、視空間認識に悪化などがある。
中期
失行 見当識障害 判断力低下
最終的
IADLケアに依存し自立歩行 嚥下の能力すら失う。
日常生活関連動作 Instrumental Activities of Daily Living(道具を用いた日常生活活動)
最も早期にみられる症状は偏執的な妄想やよくうつ
後にならないとこれがアルツハイマーの一部であったことに気づかない。
人生の大きな変化によって顕在化することもある
神経学的徴候は早期には診られない。痙攣発作は進行すれば診られることがある。
Alzheimer 病の臨床診断 |
MMSE などでの確認 2領域以上の認知機能障害 進行性の認知機能低下 意識レベルは正常 発症が40〜90才 そのほかの原因なし。 診断を支持する因子:家族歴 神経画像検査での脳萎縮脳波と腰椎穿刺の結果が正常
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●血管性認知症
理論的には機能喪失は脳血管系イベントと時間的に相関している。「階段状」悪化であるとは限らない。
意識レベルは正常 神経学的に脳卒中が示唆されなくてもありうる。
● Lewy小体型認知症
軽度のパーキンソン病 原因の説明できない転倒 疾患早期からの幻覚 妄想 などがある。
また、向精神薬により錐体外路症状を起こしやすい。
認知症全体の20%
●前頭側頭型認知症
60才未満 で発症 言語障害がよくみられる。記憶は早期には保たれる。人格障害が著明。行動障害を伴い 過食衝動性 攻撃性の増悪 顕著な無気力などがある。
進行性核上性麻痺 原発性進行性失語症 意味性認知症 認知症を伴うALS 大脳皮質基底核変性症 などが含まれる。
●せん妄
譫妄は代謝異常 薬剤性 感染症など全身の重篤な異常を反映することがあるためそういう視点で診断を進める。
突然発症することもあり、意識状態の異常幻覚妄想 攻撃行動などが見られる。
● 大うつ病 認知症の30%がうつを持っていると言われる。
大鬱病が認知症の最初の症状であることがある。
● 薬物 ベンゾジアゼピン バルビッツレート 抗コリン薬その他の催眠剤が一般的
● 軽度認知障害 MCI 記憶障害の証拠があるがその他の認知障害はない認知症発症は12-15%
● 硬膜下血腫 神経障害は軽度
● 外傷性脳損傷 脳しんとう後症候群 人格や気分の変化が現れることがある。
● 脳腫瘍 前頭葉や脳梁の腫瘍により全般的知能低下を伴う記憶障害が怒る。側頭葉の腫瘍では失行 失語 失認 失書 立体感覚失認 無視が生じる
● ビタミンB12欠乏症 潜在的に発症抑鬱を随伴することもある。神経症状は固有知覚 振動覚の減弱 失調 Bkinnski陽性が認められる。
● 甲状腺疾患 低下でも亢進でもおこりうる。
● 慢性飲酒 禁酒後には回復する
● 毒物 芳香族炭水化物 溶媒 重金属 大麻 オピオイド
● Parkinson病 再認記憶は保たれるが自由想起が出来なくなる。視空間機能が障害されることもある。認知症発症よりかなり以前からParkinson病の運動症状があるところがLewy小体型認知症との相違点
● その他 CNS血管炎 神経去る子どーシス SLE 肝臓腎臓疾患 Wilson病 慢性CNS感染症 電解質異常 神経梅毒 HIV関連認知症 Huntington病 Creutzfeldt-jacob病などがある。
認知障害に役立つ臨床検査法 |
甲状腺 梅毒 ビタミンB12 以外は非特異的 CT MRI SPECT PETはルーチンには行なわない。 (発症年齢が若く持続期間が3年以内で、急速に進行する 非典型的などの際に考慮する) そのほか腰椎穿刺 HIV 脳波などがある。 |
● 3 治療
3−1 我々医師の心構え
① ケアプランを患者が理解できずまた実行も難しい
② 便秘 排泄 歯痛 視力 聴力 スキン(特に会陰部)に注意を払い続ける。
③ 認知症のない患者と同様の1次予防を施行する。
④ 進行するリスクを考える
⑤ 生活における安全を考慮する(特に運転 火の扱い)
⑥ 家族の疲弊やQOLを考慮する
3−2 薬物療法
薬物療法は患者の迷惑度が薬物の鎮静の度合いを高める傾向になりがちであることに注意する。
適応を十分に検討し、また副作用 相互作用禁忌事項を十分に理解したうえで使用する。
効果の度合いを十分に熟知し本人家族に多大な期待を抱かせない。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
薬品名 |
投与量 |
利点 |
副作用 |
ドネペジル |
5mgから開始 1カ月後に目標量である10mg/dayまで増量 |
軽症から中等度のAlzheimer病の進行を遅らせる |
悪心嘔吐 下痢食欲不振 |
ガランタミン |
4mgを1日2回から開始。目標(24mg/day)に達するまで1カ月ごとに4mgずつ増量 |
軽症から中等度のAlzheimer病の進行を遅らせる |
悪心嘔吐 下痢食欲不振ヒガンバナ マツユキソウ |
リバスチグミン |
我が国ではパッチのみの発売1日1回4.5mgから開始し、原則として4週毎に4.5mgずつ増量し、維持量として1日1回18mgを貼付する。 |
軽症から中等度のAlzheimer病の進行を遅らせる |
悪心嘔吐 下痢食欲不振
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メマンチン(メマリー)NMDA受容体拮抗剤 |
5mg/dayから開始1カ月後に目標値であり10mg/dayまで |
中等度から進行したAlzheimer病の機能低下認知機能の改善を軽減(コリンエステラーゼ阻害剤と併用できる) |
めまい 錯乱頭痛便秘 アマンタジンとの併用を避ける |
ビタミンEは死亡率上昇を伴う可能性がある
NSAID エストロゲン メシル酸エルゴロイドを認知症の薬として使用してはならない。
大鬱病との合併がある場合はSSRI 三環系抗うつ薬を用いる。
幻覚 妄想 攻撃行動といった精神症状に対して
抗精神薬を用いるが、ハロペリドールはジスキネジアやパーキンソニズム 悪性症候群のリスクがあるためリスペリドン オランザピン(ジプレキサ)の方が好んで使われる
可能な限り最小量 最短とする
不眠に対しては 環境 カフェイン摂取 日中の睡眠を検討したうえでトラゾドン(レスリン=デジレル)25−50mgやゾルピデム(マイスリー)5−10mgを慎重に用いる。